平成27年の1年間に、日本全国で発生した交通事故の件数は、53万6899件でした (警察庁交通局作成の「平成27年における交通事故の発生状況」より)。この件数を基準にすると、1日当たり1470件もの交通事故が発生している計算になります。
このように交通事故に巻き込まれることは決して珍しいことではなく、対応策に関する事前の情報・知識を得ておくことは有益です。
そこで、これから複数回にわたり、交通事故に巻き込まれた場合に知っておくべき情報・知識について説明していきます。
交通事故ワンポイントコラムの初回のテーマは、「損害の種類」について取り扱います。本コラムを通じて主な損害の種類を把握し、請求できたのに請求し忘れたという事態が回避できれば幸いです。
「人身損害」を端的にいうと、交通事故によって怪我を負った場合に発生する損害のことをいいます。
1 治療関係費
交通事故によって怪我を負った場合に、病院に入院、通院することがあり得ます。その際 には、入院費用や治療費がかかります。入院費用や治療費は、内容や時期で否定されることはありますが、「必要かつ相当な範囲」で全額損害に含まれます。
そして、「治療関係費」には、この入院費用や治療費のほか、病院に通院する際にかかる「通院交通費」や、症状や幼児が怪我を負った場合等の必要な場合に認められる「通院付添費」など、事情によって認めらる損害もあります。
2 休業損害
交通事故の被害者は、交通事故によって受けた傷害の治療のために仕事を休まざるを得なかったため、その間収入を得ることができないという状況があり得ます。この状況で被る損害のことを、「休業損害」といいます。
休業損害は、事故当時の1日当たりの基礎収入に休業日数を掛けて計算されます。
【休業損害 = 1日の基礎収入 × 休業日数】
もっとも、1日当たりの基礎収入の算定方法等、計算の方法が争いになることがあります。
3 慰謝料
交通事故の結果発生する人身損害における慰謝料には、被害者が
①死亡した場合に発生する慰謝料
②傷害を負った場合に入通院を余儀なくされた結果発生する入通院慰謝料
③後遺障害を負った場合に発生する後遺障害慰謝料
があります。
これらの慰謝料については、認められるか否か、認められるとしてその金額がいくらであるかについて争いになることがあります。
4 逸失利益
交通事故で被害者が死亡した場合には、もし被害者が生きていたとしたら将来得ることができた利益を得ることができなくなります。また、交通事故で被害者が後遺障害を負った場合にも、もし後遺障害を負わなければ将来得ることができた利益を得ることができなくなります。 この将来得ることができなくなる利益のことを、「逸失利益」といいます。
「逸失利益」の算定方法は、事情によって様々ですし、複雑ですので、専門家に相談することをお勧めします。
「物件損害」を端的にいうと、交通事故によって車両が損傷した場合に発生する損害のことをいいます。
1 修理費
交通事故によって車両に損傷が生じた場合、この損傷を修理するための修理費が必要であり、かつ、相当な範囲の修理費用が損害として認められます。そして、必要かつ相当な修理費用といえるか否かについて争いになることがあります。
なお、修理費の金額と損傷を受けた車両の時価額を比べた場合に修理費用の金額のほうが車両の時価額よりも高い場合のことを「経済的全損」といいます。「経済的全損」の場合は、現実に車両の時価額を超える修理費を支出していたとしても、原則として車両の時価額の限度でしか損害と認めらないとするのが裁判所の判断です。
2 代車使用料
交通事故によって損傷した車両を修理に出す等、当該車両が交通事故によって使用不能となった場合に、レンタカー等の代車を使用することがあると思います。この代車を使用するための費用が「代車使用料」として損害に含まれる場合があります。
「代車使用料」を損害として計上できるか否かについては、代車を使用する必要性や、代車を使用する期間の相当性を考慮して判断します。
3 休車損害
交通事故によって損傷した車両がタクシーや営業用トラックなどの営業車(緑ナンバー等)の場合、当該車両が交通事故によって使用不能となったとしても、許認可等の問題があり、レンタカーを代車として使用することができません。
そこで、交通事故によって営業車が使用不能になった場合、車両を運行していれば得ることができる利益が「休車損害」として損害に含まれる場合があります。
「休車損害」を損害として計上できる期間については、代車使用料の場合と同様、期間の相当性を考慮して検討します。
4 慰謝料
物件損害の場合は、人身損害の場合と異なり、原則として慰謝料は認められません。これは、物件損害の場合、その損害は財産的損害にとどまり、修理費用等の財産的損害について適正な損害賠償がなされれば、それ以上の精神的苦痛はないと考えられているためです。
もっとも、裁判例の中には、個別具体的な事情を考慮した上で、物件損害の慰謝料を認めている事案も複数ありますので、一度専門家に相談することをお勧めします。
以上のように、交通事故の損害には様々な種類があり、損害として認められるか否かについて、法的判断が必要となる場合も多々あります。
そこで、少しでも疑問点がある場合は、法律家に相談することをお勧めします。