相続にまつわる問題のあれこれについてのコラムです。
第②回目は、預貯金の相続についてです。
預貯金について、従前、判例は、「相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分にしたがって権利を承継する。」(最判昭和29年4月8日)と判示し、預貯金等の金銭債権は、相続人間における遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始とともに当然に分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属するとされておりました。
よって、預貯金は、遺産分割の対象ではなく、相続人が、それぞれ自己の法定相続分
に相当する部分について払い戻しを請求することができることとされておりました。
ですので、遺産分割協議、調停においても、共同相続人全員で、預貯金も遺産分割の
対象とする旨の合意をした場合には協議に含めることができましたが、そのような合意
なき限り、預貯金は、遺産分割の対象とはなりませんでした。
また、相続人が、それぞれ自己の法定相続分に相当する部分について払い戻しを請求
することができるとしても、実際の銀行実務においては、共同相続人の1人からの自己
の法定相続分に応じた預金の払い戻し請求を拒絶し、相続人全員が署名押印した払戻請
求書または遺産分割協議書と印鑑証明書を求められることが通例であり、そのような場
合には、銀行を被告として、訴訟提起する必要がありました。
最高裁は、
①具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点
においては、預貯金が現金に近いものとして想起されること。
②預貯金契約は、消費寄託の性質を有するものであるが、預貯金契約に基づいて金
融機関の処理すべき事務には、預貯金の返還だけでなく、委任事務ないし準委任
事務の性質を有するものも多く含まれていること。
③預貯金は決済手段としての性格を強めてきていること。
④一般的な預貯金については、預貯金債権の存否及びその額が争われる事態は多く
なく、預貯金債権を細分化してもこれによりその価値が低下することはないと考
えられること。
から、預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという
点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえ
る。
と預貯金債権の性質を分析したうえで、
(1)普通預金債権及び通常貯金債権について
普通預金債権及び通常貯金債権は、口座において管理されており、預貯金契約
上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性
を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確
定額の債権として分割されることはないと解される。そして、相続開始時におけ
る各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終
了していない以上、その額は観念的なものにすぎないというべきである。
(2)定期貯金債権について
定期貯金の前身である定期郵便貯金につき、原則として預入期間が経過した後
でなければ貯金を払い戻すことができず、例外的に預入期間内に貯金を払い戻す
ことができる場合には一部払戻しの取扱いをしないものと定めている。
定期貯金についても、定期郵便貯金と同様の趣旨で、契約上その分割払戻しが
制限されているものと解される。そして、上記の制限は、単なる特約ではなく定
期貯金契約の要素というべきである。しかるに、定期貯金債権が相続により分割
されると解すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を
生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反する。
「以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債
権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分
に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当であ
る。」
と判示しました。
すなわち、
1 預貯金債権は、遺産分割の対象となる。
2 相続人は全員で共同しなければ預貯金の払い戻しを受けることができない。
ことになります。
被相続人の遺産の中に預貯金がないということは少なく、遺産分割協議を行うに際して、必ずと言っていいほど問題になる預貯金の問題ですが、近時、このような重要な判例変更がありました。
そして、これからの実務の運用に注目したい点であります。
詳しくは、当事務所にご相談いただければと存じます。