まずは、改正規定を見てみましょう。
●179条1項
18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。
●179条2項
18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。
例えば、親子間において、監護者がその影響力に乗じ、暴行脅迫等によらずに、18歳未満の者の性的自由を侵害してわいせつ行為や性交等を行うといった性的虐待事案が存在します。
こうした事案について、これまでは、被害者が13歳以上であると、暴行又は脅迫を用いたあるいは心神喪失又は抗拒不能に乗じた等と認め難い場合には、児童福祉法違反(同法34条1項6号、60条1項)で処罰するほかないケースも多く存在しました。
しかし、その法定刑は、10年以下の懲役or/and300万円以下の罰金と定められており、これでは処罰として軽すぎるという意見がありました。
上記のような背景のもと、今回、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪が新設されましたが、その改正趣旨については、一般的には、以下のように説明されています。
・18歳未満の者の多くは、監護者に精神的、経済的に依存して生活している。意思に反して性交等に応じざるを得なくなるという影響力を類型的に認めることができる。
・監護者が、暴行脅迫等によらずとも、その影響力を利用して性交等をすることは、強制わいせつ罪や強制性交等罪に当たる行為と同様に悪質で、同等の当罰性がある。
① 暴行脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件は、本罪が成立するための要件として不要です。
② 被害者の同意の有無も、本罪の成否には影響しません。
③ 被害者が13歳未満の場合は、本罪(179条)ではなく、強制わいせつ罪(176条後段)あるいは強制性交等罪(177条後段)により処罰されます。
・法律上の監護権を有する者に限定されません。事実上、18歳未満の者を現に監督し保護している者であれば当たり得るとされています。
・ただし、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点や生活上の指導監督などの精神的な観点から、依存・被依存、保護・被保護の関係が認められ、かつその関係に継続性が認められることが必要とされています。
・そうすると、一般的な雇用関係や教師と生徒の関係は、原則的には該当しないことになると思われますが、上記の基準に当てはまるような事情があるときには、該当する場合もあると考えられます。また、本罪とは別に、被害者の「抗拒不能」が認定される場合には、準強制性交等罪など(178条)の成否が検討されるケースもあると思われます。
次回の第5弾では、「法定刑の引上げ」について取り上げます。