交通事故ワンポイントコラム①の記事で、交通事故で怪我を負った場合の休業損害は、加害者に請求できる損害の1つであることを指摘しました。
そして、休業損害に関する問題は、被害者が給与所得者なのか、事業所得者なのか、家事従事者なのかなど、被害者の状況によって様々です。
そこで、今回は、被害者が給与所得者である場合の休業損害について、説明したいと思います。
前提として、給与所得者とは、どういう立場の人のことをいうのか説明します。給与所得者とは、雇用契約などの法律関係のもとに、労務を提供し、その対価として所得(給料)を得ている者のことをいいます。
つまり、自分で事業を行っている個人事業主や会社の取締役などは、報酬は得ているものの、その金銭は雇用契約に基づく給料ではないため、給与所得者ではありません。
交通事故ワンポイントコラム①の記事において、休業損害とは、被害者が交通事故によって受けた傷害の治療のために仕事を休まざるを得なかったため、その間収入を得ることができなかったために被った損害のことをいい、その金額は、事故当時の1日当たりの基礎収入に休業日数を掛けて計算されることを説明しました。
それでは、給与所得者の1日当たりの基礎収入は、どのようにして計算するのでしょうか。この点につき、考え方は複数あります。
①月給を30日(若しくは31日)で割り、1日当たりの給与額を算出する。
②年収を365日(若しくは366日)で割り、1日当たりの給与額を算出する。
③事故前3か月間の収入を足し、その合計金額を算定に使用した3か月間の日数で割ること
で、1日当たりの給与額を算出する。
など、など。
ここまで読んで、①、②、③どれも金額が一緒になるのではないかと思われる方もいるかもしれませんね。 確かに、毎月の給与額が全く同じ金額の方は、どの計算方法で計算しても金額が一緒になります。
しかし、日雇い労働者やシフト制の時間給労働者の方などは、月に働いた労働日数、労働時間によって、その月の給料が増減することもあるでしょう。また、月給の中には、基本給だけでなく、残業代が含まれることもあり、その場合は、残業時間によってその月の給料が増減することもあるでしょう。
したがって、どの計算方法で計算する方がいいのか、選択した計算方法は合理的なのかという点で十分に検討することが重要です。
給与所得者の中には、有給休暇を取得している方もいることでしょう。それでは、被害者が交通事故によって受けた傷害の治療のために仕事を休んだが、有給休暇を使用したため、休んだ日の給料相当額を得ることができた場合、当該被害者は休業損害を請求できるのでしょうか。
確かに仕事は休んだが、その日の給料相当額を有給休暇使用で補填できているのですから、休業しておらず、損害が発生していないとも思えますね。
しかし、有給休暇は、本来、好きな時に使用できたばずです。そうであるにもかかかわらず、治療のために有給休暇を使用せざるを得ず、自身の好きな時に使用できなくなることは不利益であると考えるのが通常なのではないでしょうか。
裁判所も、事故により欠勤したが、有給休暇を振り当てたため給与は全額支給されて計算上の休業損害が生じていないという事案において、「有給休暇は労働者の持つ権利として財産的価値を有するものであり、他人による不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかった者は、それを財産的損害として賠償できる」旨判示しており、この考えかたが実務の圧倒的多数となっています。
以上のように、給与所得者の休業損害については、計算方法の選択、有給休暇の請求方法など、しっかり検討しなければならない問題があります、そこで、休業損害の請求でお悩みの方は、一度専門家に相談することをお勧めします。