相続にまつわるあれこれについてのコラムです。
第7回目は葬儀費用についてご説明します。
葬儀費用は、相続開始後に生じる債務ですので、遺産とはいえず、また、相続財産に関する費用ともいえません。ですので、葬儀費用をめぐる紛争は、遺産分割の対象ではなく、不随問題と位置付けられます。
ですが、遺産分割交渉をしているとしばしば、葬儀費用に関する話し合いも行われることがあります。
そこで、葬儀費用について範囲やその負担者等を以下でご説明します。
一般に、葬儀費用とは、死者を悼む儀式及び埋葬等の行為に要する費用と解されます。
具体的には、通夜の費用、葬儀告別式の費用、納骨の費用などが含まれ、墓地の対価は含まれません。
初七日や四十九日の費用については、葬儀費用に含まれるとする見解と含まれないとする見解とに分かれています。この点については、一律に葬儀費用に含まれるか否かを決するのは困難であり、葬儀の後に行われる祭祀の実情を踏まえて、個別に判断することとなります。
このように、葬儀費用に含まれるか否かについては、個別の事案の具体的な費用・項目ごとに検討する必要があります。
葬儀費用の負担者の問題は、①葬儀費用の債務者はだれかという問題と、②その債務者が支払った葬儀費用相当額を誰に負担させるかという二つの問題に区別されます。
①については、通常は、喪主(祭祀承継者)は葬儀業者などと契約していることから、債務者となるのは喪主ということになります。
②については、通常は、被相続人の生前の指示があり、相続人ら遺族がこれを尊重して決めたり、相続人、親族などの関係者が協議して合意のうえで決めたりすることが多いと思われます。
このように、関係者の協議により、誰が葬儀の主宰者(喪主)となり、誰が葬儀費用を負担するかは、自由に決めることができ、合意ができる場合には、紛争になることは少ないでしょう。
被相続人の指示がなく、相続人など関係者の合意ができない場合には、葬儀費用の負担者について争いが生じることとなります。
この場合、だれが葬儀費用を負担するべきかについて見解、裁判例は主に以下の4つに分かれています。
相応の費用は、葬儀の形態を決めるなど実質的に葬儀を主宰した者(喪主)が負担すべきであるとする説です。
近時の裁判例では多く見られる見解ですが、裁判例ごとに、個別の事情が考慮されていますので、一概にすべての場合に喪主が負担するべきとまではいえないでしょう。
やはり、個別の事案に応じて具体的に葬儀費用の負担者を考えていくべきです。
相応の費用は、相続人の共同負担とすべきであるとする説です。
葬儀費用の負担は、遺産から支出すべきであるとする説です。
葬儀費用の負担は、専らその地方又は死者の属する親族団体内における慣習もしくは条理によって決するしかないとする説です。
重要なのは、これら4つの見解いずれかにより、負担者が一律に決められるのではなく、個々の事案で、具体的な事実関係を検討したうえで、だれが負担するのが適切かを個別に判断する必要があるということです。
香典については、一般に、死者の供養のため、あるいは、遺族の悲しみを慰藉する意味がありますが、被相続人の遺族らの負担を軽減する相互扶助を目的とする金銭等の財物の贈与っという性格があるといわれています。
香典の受取人は、通常は喪主と理解されています。香典から香典返しに充てられる費用を除いた後の部分については、葬儀費用に充てられることになります。
裁判例においても、「香典の基本的性格は葬儀費用の一部負担と考えられ」「香典は喪主に贈られたもの」であり、喪主が「香典を第一次的に葬式費用に充当し、次いで法事等の祭祀費用に充てることができる。」と判示したものがあります(広島高裁平成3年9月30日判決)。
以上のように、特に葬儀費用の範囲、葬儀費用の負担者等については、個別具体的な事情から事案ごとに判断せざるを得ないものとなります。
葬儀費用は、遺産分割とは別の問題ですが、やはり、当事者の方のお気持ちの問題から、分けて考えられない方も多く、遺産分割交渉に際して、争点となる場合も多い問題ですので、ぜひ、争点化する前にご相談ください。