相続にまつわるあれこれについてのコラムです。
第8回目は、被相続人の生前の使途不明金の問題についてです。
例えば、被相続人名義の預金口座の取引履歴を入手してみると、生前に多額の引き出し行為がなされていることが判明することがあります。
そして、それを一体誰が引き出したのか、引出金を何に使ったのかについて問題となることがあります。
そのような生前の使途不明金に関しては、どのように解決をすればよいのでしょうか。
相続人間で遺産分割協議をしている中で、事情を把握している共同相続人が説明をしてくれれば、相続財産に組み入れた話し合いを行うなど、柔軟な解決が可能です。
しかしながら、事情を知っているはずの共同相続人が何ら説明を行わなかったり、遺産分割の中での話し合いを拒否したりすると、生前の使途不明金は、遺産分割の中で解決することができなくなります。
生前の使途不明金の問題は、遺産分割とは別個の問題であり、遺産分割審判の対象とはならないのです。
共同相続人間の話し合いにおいて生前の使途不明金についての解決ができない場合、別途、民事訴訟において解決をしなければなりません。
一般的には、不当利得返還請求、あるいは、不法行為に基づく損害賠償請求をすることとなります。
まずは、その預金を誰が引き出したのか立証する必要があります。つまり、被告となっている共同相続人が引き出したことを立証しなければなりません。
被告となっている共同相続人が引き出したという場合でも、それが被相続人の同意、承諾を受けていたり、自ら引出権限を有する場合には、その引出行為は違法でも不当でもないので、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求は認められません。
この点は、何を「損害」「損失」と捉えるかによって理解が変わってくるのですが(引き出し行為における預貯金債権の消滅を損害、損失と捉えるのであれば、引出金の使途は、事後的な事情であり、論理的には「損害」「損失」の有無には影響がないということになりますし、引出金の着服、私的流用等、被相続人の意思に反する使途への消費をもって損害、損失と捉えるのであれば、当然「損害」「損失」の判断は、引出金の使途によって変わってくることになります。)、引出金の使途についても問題になります。
この点に関しては、仮に引出行為者に抽象的な引出権限が認められたとしても、引出金の使途について説明できないと、権限の範囲を超えた引き出しと認定されてしまうこともあります。
以上のように、被相続人の生前の使途不明金がある場合には、しばしば、相続人間でその解決について揉めることが多く、その解決には、時間、労力を要することになります。
お早めにご相談ください。