これまで見てきたとおり、今回の刑法改正においては、性犯罪処罰規定について抜本的な改正が行われました。もっとも、今回の刑法改正は終着点ではなく、法案の審議の過程において議論されつつも改正には至らなかった問題点等を含め、性犯罪に対する施策の在り方について、継続的な検討を行うことが予定されています。
シリーズ最終稿となる本稿では、この点に関し、①改正法附則9条と、②法務委員会における附帯決議を、それぞれ紹介します。
次に規定されるとおり、施行から3年後の再検討が予定されています。
「政府は、この法律の施行後三年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」
附帯決議とは、国会の委員会が付託された本案に附帯して行う決議です。
今回の改正法に関しては、国会の法務委員会において、次のような付帯決議がなされています。この決議自体に法的拘束力はありませんが、決議された内容は、改正法の施行にあたって実務上の重要な指針となります。
●決議
平成29年6月7日 衆議院法務委員会
平成29年6月16日 参議院法務委員会
●決議事項(※抜粋・一部筆者要約)
政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
① 本法の趣旨、本法成立に至る経緯、本法の規定内容等について、関係機関等に周知徹底すること。
② 「暴行又は脅迫」「抗拒不能」の認定について、被害者と相手方の関係性や被害者の心理をより一層適切に踏まえてなされる必要があるとの指摘に鑑み、これらに関連する心理学的・精神医学的知見等について調査研究を推進するとともに、これらの知見を踏まえ、司法警察職員、検察官及び裁判官に対して、性犯罪に直面した被害者の心理等についての研修を行うこと。
③ 捜査及び公判の過程においては、被害者のプライバシー、生活の平穏その他の権利利益に十分配慮し、偏見に基づく不当な取扱いを受けることがないようにするとともに、二次被害の防止に努めること。また、被害の実態を十分に踏まえた適切な証拠保全を図ること。
④ 起訴・不起訴の処分を行うにあたっては、被害者の心情に配慮するとともに、必要に応じ、処分の理由等について丁寧な説明に努めること。
⑤ 起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置についての検討を行うに当たっては、性犯罪に係る刑事事件の捜査及び公判の実情や、被害者の再被害のおそれに配慮すべきであるとの指摘をも踏まえること。
⑥ 強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ、被害の相談、捜査、公判のあらゆる過程において、被害者となり得る男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしないことを、関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること。
⑦ 児童が被害者である性犯罪については、その被害が特に深刻化しやすいことなどを踏まえ、被害児童の心情や特性を理解し、二次被害の防止に配慮しつつ、被害児童から得られる供述の証明力を確保する聴取技法の普及や、検察庁、警察、児童相談所等の関係機関における協議により、関係機関の代表者が聴取を行うなど、被害児童へ配慮した取組をより一層推進していくこと。
⑧ 性犯罪等被害に関する調査を実施し、性犯罪等被害の実態把握に努めるとともに、被害者の負担の軽減や被害の潜在化の防止等のため、ワンストップ支援センターの整備を推進すること。
⑨ 性犯罪者は、再び類似の事件を起こす傾向が強いことに鑑み、性犯罪者に対する多角的な調査研究や関係機関と連携した施策の実施など、効果的な再犯防止対策を講ずるよう努めること。